石川直樹×warukoni編集長 パート3

「五感全てを大切にして、自然を感じる。世界を感じる。それが『成熟』」


西:そして「自然」ね。今回の雑誌の取材で面白い話を聞いたよ。森の権威、安田喜憲さん(日文研)と大橋力さん(芸能山城組)と対談してもらったんだ。これがすごい面白くて。
聴覚がテーマなんですよ、森の中の。我々がこうやって都会の中にいて聞く音の種類は限られている、でも森の中では通常の6倍くらいの高周波を聞いている。もちろん耳だけではなく、皮膚感覚みたいなところで受信していて。それが森の癒しとか進化にまで繋がっているんだと言う。


石:へえー。


西:本来暮らしていた森での能力を、都会では忘れてしまったから、いろんな問題が起きていて、だからやはり人は森と繋がっていなければならない、という話。とても深い話だよ。

石:そうか………。たしかに視覚至上主義ではなく、五感を大切にしながら生きていきたいし、日々の光と闇を意識的に感じていきたいですよね。


西:そうだね。こういう風に、自然と共存する意味を改めて考えたり、日本の古き良き叡智に光をあて復権しようという意識を、あえて雑誌でスタイルとしてカッコよく提案したいんだ。それが文化的にも、それを読む人間自身も、「成熟」を促すことかもしれないし、そういう時代の段階なのかもしれない。
さて、ここで難しい質問を(笑)。石川直樹にとって「成熟」とは?


石:……うーん、難しい質問ですね。
昔は世界を知るために、その全部を見ないと分からないと思っていたんです。自分の身体で経験しようとがむしゃらに頑張っていたけれど、今はもう少し身近なところに世界の本質があるような気がしています。
近所の道ばたに生えている名もない草花や、家を出て見上げたところに広がっている灰色の空なんかに、世界の全てがあるんじゃないかと。全体を知るために全体を見ることが大事なのではなくて、部分を突き詰めていったときにそこに世界の本質が見えてくる。
一歩も動かずに旅はできるんだなあと。


西:神は細部に宿るってやつ。


石:そうなのかな。もしかしたらそんな感じかもしれません。なかなか抽象的な話になってきましたね。まあとにかく『リクウ』を読むのが楽しみになってきました。


西:楽しみにしててよ。あ、石川くんも何か書いてね(笑)。

いかがでしたか?
『リクウ』がどんな想いで、またどんな方たちに支えられて実現していったか、お分かりいただけたでしょうか。

そうそう、この対談の言葉どおり、石川直樹さんもフォトエッセイを執筆してくださいました。
そのタイトルは、「マオリの神話より/カヌーが森へ還るとき」
いよいよ発売も来週に迫ってきました。

キャンペーン情報などもどんどんご紹介していきますよ〜。